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タッピンねじの締め付け条件選定とその対応

小長井 和裕
KONAGAI KAZUHIRO

日本ねじ研究協会誌
第38巻 第5号 抜刷
平成19年5月20日発行


ベクトリックス株式会社

■ 本社
〒171-0043 東京都豊島区要町 1-4-11 サダシン要町ビル
TEL:03-5995-3800 FAX:03-5995-3831
目次

1. はじめに

 高い軸力を要求としない樹脂や薄板鋼板などへのねじ締結は、近年タッピンねじによる締結が多く使用されている。
これは、タッピンねじは相手部材へのタップ加工を必要としないため安価でねじ締結ができ、そしてインサート部材の抜去が不要のためリサイクルが容易であるという理由からである。
しかし雌ねじに雄ねじを螺入する小ねじ等の締結と違って、タッピンねじでの締結には、ねじ自ら相手部材を塑性タップ加工(Self Tapping)するため、着座するためにはある程度のねじ込みトルクを必要とする。
そしてSelfTapping ができるということは、相手部材は塑性変形が容易な軟質材料であるが故に、着座後のねじ締めトルクを掛け過ぎると今度は相手部材の雌ねじ破壊を起こし、「ねじバカ」状態となる。
 つまりタッピンねじは、デリケートなねじ締めトルクの管理を必要とするねじである。
 そこで、このデリケートなタッピンねじを、より使い易くするための締め付け条件の選定とその対応について述べてみることとする。



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2. タッピンねじのねじ締めトルク曲線

 (図−1)は、当社製品である「PC トルクアナライザー」を用いて作成した試験報告書である。
樹脂用タッピンねじのねじ込み開始から雌ねじ破壊までのサンプル数:5 を重ね合せした合成「時間−トルク曲線」である。
本トルク曲線から解ることは、相手材ABS 樹脂5.8mm 厚みのφ2.65 通し穴に対して、呼び径3mm 首下長さ12mm の樹脂用タッピンねじの着座するまでに必要なねじ込みトルク(Driving Torque)の平均値は、0.26N・m である。
そして、雌ねじの破壊トルク(Failure Torque)の平均値は、1.10N・mである。
つまり、本ねじ締め条件下では、0.26N・m以上の締付トルク(Setting Torque)をタッピンねじに掛けなければ着座しない、1.10N・m以上のトルクを掛けると「ねじバカ」となる。
 よって、本ねじ締め条件下での最適な目標締付トルクは、その中央値である下記の計算式(式1)より算出され、0.68N・mとなる。


TS =(TD+TF)/2 ・・・・・(式1)
 TS:目標締付トルク TD:ねじ込みトルク TF:締付破壊トルク


 但し、(式1)は、あくまでも平均値による計算式であって、バラツキ(標準偏差)を無視した計算式である。
そこで次項に標準偏差を考慮した統計的手法によるTS の算出方法について述べることとする。



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試験報告書

■日本ねじ研究協会

ファイル名 ねじ研02b.TRA
試験の種類 ねじ込み試験 試験日 2004/01/24/1552
試験場所 ベクトリックス本社 試験担当者 小長井和裕
試験の目的 トルク解析 試験機名 TORQ5N
備考   トルク単位 N.m
ねじの種類 PタイトPH(+) 相手材料 ABS樹脂 回転数 700rpm
ねじの呼び 3×12 下穴・形状 φ2.65通し穴 荷重 50N
材質・表面 SWCH16A クロメート めねじ長さ 5.8mm 温度・湿度 20℃
ロット番号   その他   メモ  

サンプル数  
(x/n):
 Total / 5 
最小値 最大値 範囲 平均値 標準偏差
ねじ込みトルク
TD:
 0.26  N.m
0.23
0.28
0.05
0.26
0.02
目標締付トルク
TS:
 0.68  N.m
0.66
0.78
0.12
0.68
0.05
締付破壊トルク
TF:
 1.10  N.m
0.97
1.23
0.26
1.10
0.09
締付破壊トルク比
F/D:
 4.19     
3.46
4.83
1.36
4.18
0.53
締付仕事量     
ED:
 60.26  N.m msec
54.52
64.93
10.41
60.54
4.01



(図−1)



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3. 統計的手法による目標締付トルク:TS の算出方法

 ねじ込みトルク:TD と締付破壊トルク:TF は、ねじ締め条件とタッピンねじのバラツキにより、それぞれにバラツキが発生する。
 そこで、安全を見た着座に必要なねじ込みトルクを目標締付トルク:TS の最小値:TS min とすると、統計的手法により下記計算式(式2)となる。


TS min = TD bar+4 Dσ ・・・・・(式2)
  TS min:安全を見たTS の最小値 TD bar:TD の平均値 Dσ:TD の標準偏差


 同様に安全を見た「ねじバカ」を起こさない締付破壊トルクをTS の最大値:TS max とすると下記の計算式(式3)となる。


TS max = TF bar−4 Fσ ・・・・・(式3)
  TS max:安全を見たTS の最大値 TF bar:TF の平均値 Fσ:TF の標準偏差


 つまり、統計的手法による算出では目標締付トルクは、(式2) と(式3)の間となり、その中央値:TS は下記計算式(式4)となる。


TS = { TS min + TS max }/2
  = {(TD bar+4 Dσ)+(TF bar−4 Fσ)} /2 ・・・・・(式4)
  TS:統計的手法による目標締付トルクの中央値


 但し、TS min (式2) < TS max (式3) が絶対条件となる。 TF bar / TD bar(締付破壊トルク比)が小さく、またバラツキが大きい時は、この条件を満たさず逆になる場合があるので注意のこと。
(この条件を満たさない場合の対応については後述とする。)
 (図−1)の試験報告書は、サンプル数n= 5 の試験データであるが、TD の標準偏差:Dσは、0.02、TF の標準偏差:Fσは、0.09 のため、本締付条件下での統計的手法による目標締付トルクの中央値:TSは、(式4) により下記算出される。


TS = {(0.26+4×0.02)+(1.10−4×0.09)} /2 = 0.54 N・m


 そして、そのTS の下限値 (最小値)と上限値 (最大値)は、(式2) と (式3) により下記となる。


TS 下限値 = TS min = 0.26+4×0.02 = 0.34 N・m
TS 上限値 = TS max = 1.10−4×0.09 = 0.74 N・m


 よって、公差表記をした統計的手法による目標締付トルク:TS は下記となる。


TS = 0.54±0.2 N・m



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4. 組立現場でのタッピンねじのねじ締め作業の現状

 今まで述べてきたのは同一ねじ締め条件下での目標締付トルク:TS の算出方法である。
 しかし、実際の組立現場では、1 台のねじ締めドライバで複数箇所のねじ締めを行なうのが通常のため、TS の算出は、すべてのねじ締め箇所毎のTD とTF を調査する必要がある。
 しかも昨今では小ロット生産やモデルチェンジのサイクルが短くなり、それに対応すべく従来のベルトコンベア方式から、切り替えが楽なセル方式へと生産方式が大きく変化している。
セル生産方式でのねじ締め作業上の大きな問題点は、複数のねじ締め条件が混在することである。
セル生産方式では、同一ねじ締め条件下でのねじ締め作業は稀であるといっても過言ではない。
相手部材の材質、厚み、下穴径、ボスの有無と高さ、また樹脂だけではなく薄板鋼板あり、ダイカストありである。
そして被締結材も複数あり等々と、例え同一種類・同一サイズのタッピンねじ使用のねじ締め作業でも、様々なねじ締め条件が混在しているのが組立現場の現状である。



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5. ねじ締めドライバのトルク設定方法への提言

 実際の組立現場でのねじ締めドライバの設定トルクの決定方法を以下提言する。
 まずは1 台のドライバでねじ締めするすべての箇所のサンプル数:nの「時間−トルク曲線」を作成する。
 そして、前述の(式2)、(式3)を用いて1 番高いTS min のねじ締め箇所と、一番低いTS max のねじ締め箇所を探し出す。
 次に、実際に使用しているねじ締めドライバで締付トルクを複数回測定して、トルク設定におけるバラツキ(標準偏差)を求める。
 そして、下記計算式(式5)で工程能力指数:Cp を算出する。


Cp =([TS max]−[TS min])/ 6 SDσ ・・・・・(式5)


 [TS max]:一番低いねじ締め箇所のTS max [TS min]:一番高いねじ締め箇所のTS min
  SDσ:ねじ締めドライバのトルク設定の標準偏差


 (式5) で算出したCp が1.33 以上であれば、前述の(式4) に[TS min]と[TS max]を入れて、複数のねじ締め箇所を1 台のドライバで行なう時の目標締付トルクとして決定し、ねじ締めドライバのトルク設定を行なう。
この上記のトルク設定方法で、タッピンねじの「着座不良」と「ねじバカ」の両トラブルから開放されるとものと確信する。
 問題は、Cp が1.33 に満たない場合である。ましてや、[TS min]と[TS max]の値が逆転している場合は、単にねじ締めドライバをバラツキが少ない高精度機種に交換しても、その対応は不可能である。
 これは、タッピンねじが持つ固有の宿命的な課題である。
解決方法としては (式5) が示すとおり、如何に[TS max]を上げ、そして、如何に[TS min]を下げるかしかない。
そのためには、(式2)(式3) が示すとおり、如何にねじ込みトルク:TD を下げ、如何に締付破壊トルク:TF を上げ、そして、それぞれのバラツキを如何に抑えるかである。
 そこで、次項にそのTD とTF の上げ下げの対応方法について述べることとする。



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6. TD の下げとTF の上げの対応方法

 本方法については、タッピンねじのユーザー側が行なうものとタッピンねじの供給者側が行なうものとの2 通りの方法があり、そして、その対応方法は多岐に亘り、組み合わせでの解決方法もある。
 また、対応方法には経済的に不可能なものや技術的に不可能なものなど、実際に行なうには数々の制約がある中での選択となるため、対応の傾向としての一覧表を作成してみたのでご参考戴きたい。

<相手部材:樹脂に対する一例>

対応者 対応方法 TDを下げる TFを上げる 補足説明
ユーザー 下穴径 TFも下がるがTD程は下がらない
はめ合い長さ TDも上がるがTF程は上がらない
ドライバ回転数  
熱可望性  
供給者 ねじ外径 TFも下がるがTD程は下がらない
ねじ谷径 - 下穴が小さめの時に効果有り
ねじ山角度  
ねじ山ピッチ  
食付部2番取り なし - タップタイト等の食付テーパー部のリリーブ
あり
ねじ面摩擦係数  
座面摩擦係数 -  

◎:効果大 ○:効果あり △:逆効果 ※:条件によって変化


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7. おわりに

 タッピンねじは本稿で述べたようにトルク管理がデリケートなねじである。
しかし、雌ねじに螺入しないということは、ねじ山形状やピッチ、精度などを自由に独自設計できるという利点がある。
 そこで、色々な特徴・特色を持った使い勝手の良い「機能タッピンねじ」が、各ねじメーカーから開発・販売されている。
これらのすばらしい「機能タッピンねじ」と「統計的手法によるねじ締め条件の選定」の普及を願ってやまない。



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